「そのエモい記事、いりますか」西田亮介さんの疑問に新聞社の編集局長が反論したら? AIに聞いてみた

社会学者の西田亮介さんが朝日新聞デジタルの寄稿で問題提起した「エモい記事」論争が、じわじわ広がっています。西田さんの意見に対する賛否はさまざまで、「エモさ上等!」と反発する新聞記者もいますが、新聞社の舵をとる幹部がどう考えているのかはよくわかりません。そこで、AIに聞いてみました。
あしたメディア研究会 2024.09.04
誰でも
「エモくて、かつ、公共性があって、データとエビデンスも十分にある記事」というテーマで、ChatGPTが生成した画像

「エモくて、かつ、公共性があって、データとエビデンスも十分にある記事」というテーマで、ChatGPTが生成した画像

今年3月、社会学者の西田亮介さんが朝日新聞デジタルに寄稿した記事が、メディア関係者の間で静かな反響を呼んでいます。

西田さんは、エピソード主体で、データや根拠の裏付けが乏しい「ナラティブで、エモい記事」が最近、新聞の紙面で増えていると指摘しながら、「もっと読むべき、掘り下げるべき出来事が世界にはあふれていないだろうか」と問題提起しました。

『<a href="https://digital.asahi.com/articles/ASS3W319WS3WULLI003M.html" target="_blank">その「エモい記事」いりますか 苦悩する新聞への苦言と変化への提言</a>』という論説記事の中で、西田亮介さんが提示した「エモい記事」のポイント

その「エモい記事」いりますか 苦悩する新聞への苦言と変化への提言』という論説記事の中で、西田亮介さんが提示した「エモい記事」のポイント

上記記事の中で、西田亮介さんが示した「エモい記事」の具体例

上記記事の中で、西田亮介さんが示した「エモい記事」の具体例

その後、西田さんの記事に対して、ジャーナリストや大学教授が賛同したり、朝日新聞の記者が「エモさ上等!」という実質的な反論記事を書いたり、X(旧Twitter)でいろいろな人が賛否を表明したり、YouTubeで「エモい記事」をめぐる討論番組が配信されたりと、さまざまな動きがありました。

ただ、新聞社の方向性を決める幹部の声は、なかなか外に聞こえてきません。いまこそ新聞社の価値を世に知らしめるチャンスではないか、とも思いますが、「沈黙は金なり」と考えているようです。

もしAIが「新聞社の編集局長」だったら?

そこで、一つの思考実験として、AIに質問してみました。もし新聞社の編集局長だったら、西田さんの問いかけにどう答えるだろうか、と。

生成AIのClaude3.5(Sonnet)に対して、西田さんの寄稿文を示した上で、こんな依頼をしてみました。

あなたは日本の大手新聞社の優秀な編集局長です。次の記事に対して、できるだけ論理的で、説得的な反論をしてください。
日本語の文章表現力はChatGPTよりも優れていると言われる生成AI「Claude3.5」に、反論文の作成を依頼してみた

日本語の文章表現力はChatGPTよりも優れていると言われる生成AI「Claude3.5」に、反論文の作成を依頼してみた

返ってきた答えがこちらです。なかなか良いポイントをついていて、新たな議論のきっかけになりそうな回答だと思ったのですが、どうでしょうか?

生成AI「Claude」の回答

お忙しい中、貴重な御意見をありがとうございます。編集局長として、西田氏の記事に対する見解を述べさせていただきます。

まず、西田氏が指摘する「ナラティブでエモい記事」の増加傾向については、その認識を共有いたします。しかし、こうした記事の価値や意義については、異なる見解を持っております。

1. 読者のニーズへの対応

西田氏は、こうした記事がSNSやデジタル版で「よく読まれる」という事実を指摘しています。これは単にPVを稼ぐためではなく、読者のニーズに応えているという証左でもあります。新聞社として、読者の興味関心に寄り添うことは重要な使命の一つです。

2. 多様な視点の提供

「エモい記事」や「ナラティブな記事」は、単なる感情的な内容ではありません。これらは社会の様々な側面を、個人の経験や視点を通して描き出す貴重な手法です。数字やデータだけでは捉えきれない社会の実相を、読者に伝える上で重要な役割を果たしています。

3. バランスの取れた報道

西田氏も指摘するように、重要なのはバランスです。我々は「エモい記事」だけでなく、データに基づいた分析記事、調査報道、そして従来型の速報性の高いニュースなど、多様な記事をバランス良く提供するよう努めています。

4. 新聞の社会的役割

西田氏は「機能のジャーナリズム」の重要性を指摘していますが、我々はそれに加えて、社会の多様な声を拾い上げ、読者の共感を得ることも新聞の重要な役割だと考えています。「エモい記事」はその一つの手法であり、社会の木鐸としての役割を果たす上で欠かせないものです。

5. デジタル時代の新聞の価値

情報過多の時代だからこそ、信頼できる情報源としての新聞の価値は高まっています。「エモい記事」も、我々の厳格な取材と編集プロセスを経て掲載されています。これは、真偽不明の情報が飛び交うネット上の情報とは一線を画すものです。

6. 読者との関係構築

「エモい記事」は、読者との情緒的なつながりを築く上で重要な役割を果たしています。これは、新聞が単なる情報提供媒体ではなく、社会の一員として読者と共に歩む存在であることを示すものです。

7. 若年層へのアプローチ

デジタルネイティブ世代にとって、従来型の硬派な記事だけでは新聞離れを加速させかねません。「エモい記事」は、若年層の関心を引き、社会問題への入り口となる可能性を秘めています。

結論として、「エモい記事」や「ナラティブな記事」は、新聞ジャーナリズムの新たな可能性を切り開くものだと考えています。もちろん、西田氏の指摘するようにバランスは重要です。我々は今後も、多様な記事のバランスを取りながら、読者の信頼に応える質の高いジャーナリズムを追求してまいります。

最後に、建設的な御意見をくださった西田氏に改めて感謝申し上げます。こうした議論を通じて、新聞ジャーナリズムはさらに進化していくものと確信しております。

新聞社の幹部の意見も聞いてみたい

その中で、「エモい記事」重視か、それとも「データとエビデンス」重視かは、結局のところ「バランスの問題」。そのバランスをどう取るかは、新聞社の方向性を決める幹部の意向が大きいのではないか、という話をしました。

いまから47年前、朝日新聞の調査研究室が『夕刊の紙面と経営の方向』という調査報告書を作り、「夕刊では感覚的要素をもっと重視すべきだ」という提言をしたことがあります。

理知的で概括的な記事は「朝刊」で主に取り上げるようにして、「夕刊」は感覚的、情緒的な側面をもっと強調してもいいのではないか。夕刊では、公的なニュースよりも私的なニュースを意識的に掲載したほうがいいのではないか。そんな提言でした。

ここで示された「感覚的」「情緒的」な記事が、いまで言えば「エモい」記事にあたるのかもしれません。

朝日新聞社調査研究室が1977年にまとめた報告書『夕刊の紙面と経営の方向』は、「夕刊には感覚的要素が必要」と提言した

朝日新聞社調査研究室が1977年にまとめた報告書『夕刊の紙面と経営の方向』は、「夕刊には感覚的要素が必要」と提言した

結局、この提言がその後の「紙面改革」に取り入れられたのかどうかはわかりません。

しかし、報告書のタイトルに「経営の方向」という言葉が入っていることからもわかるように、感覚的、情緒的な記事、すなわち、「エモい記事」を重視するかどうかは、新聞社幹部の経営判断と大きく関わっているでしょう。

それから半世紀。新聞社の置かれた状況は大きく変わりました。こんな時代に、新聞社の幹部が「紙面の方向性」についてどう考えているのか。できれば、その声を聞いてみたいと思います。

あしたメディア研究会 亀松太郎

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