「ChatGPTを使うから原稿料を減額してほしい」こんな要求にライターはどう対応すべきか?
「1文字あたり1円にしてもらえないか」
2023年8月10日に朝日新聞デジタルで公開された記事によると、フリーランスのライターとして活動している女性に対して、取引先のウェブ会社が「ChatGPTを使うから、報酬を半減して欲しい」と要望してきたのだそうです。
※朝日新聞の記事:「AI使うから報酬安く」フリーライターに突然の要求、違法の恐れも(有料記事だが、プレゼント機能で8月15日16:38まで無料で閲覧可能)
仕事の内容は、医療機関のウェブサイトに掲載する文章の執筆。それまで、このライターの報酬は「1文字あたり2円」でした。
しかし、記事の発注者であるウェブ会社は、「ChatGPTである程度文章が作成できるようになった」「あなたより安い値段で引き受けている人がいる」という理由で、「1文字あたり1円にしてもらえないか」と持ちかけてきました。
依頼された仕事の中身は、事前のリサーチから記事の構成、執筆後の見出しの作成までと、従来と同じです。そのため、ライターの女性は「おかしいのでは」と思ったのですが、「それまでの良好な関係を壊したくない」としぶしぶその金額で仕事を引き受けたのだそうです。
その後、同じ理由で「さらに単価を引き下げたい」と求められたのですが、ライターは「忙しい」と理由をつけて断るようになったということです。
このウェブ会社の要請について、朝日新聞の記事は「発注者が契約後に減額を求めたり、不当に低い価格を提示したりすることは、下請法や独占禁止法に違反する可能性がある行為だ」と、批判的に報じています。
「大企業による下請けいじめと同じ」
記事の下に投稿された有識者のコメントも、ウェブ会社の姿勢を非難するものが目立ちます。
「大企業と中小企業の間での『下請けいじめ』と同じですね。『あなたより安い値段で引き受けている人がいる』と言ってくるなんて、よくある話ですが、脅しです」(中島隆/朝日新聞編集委員)
「物価高騰の影響による報酬アップが複数の業種でようやく見られていますが、ライターの報酬アップは聞いたことがありません。その上さらに報酬を下げようとする業者があるとは絶句です」(磯野真穂/人類学者)
「過去に蓄積された情報から記事を作成するChatGPTには書けない、これまでにない視点や証拠によって作成されるライターさんの記事には、むしろこれまでより高額の報酬が支払われるというのが正しい循環だと思います」(長野智子/キャスター・ジャーナリスト)
たしかに、これまで「1文字2円」という決して高くない報酬で記事を書いてきたライターが、ChatGPTなどの生成AIの登場によって、さらに報酬が低くなってしまうのは、酷なことに思えます。
朝日新聞の記事が指摘するように、発注者の要求の仕方によっては、下請法や独占禁止法に違反するケースもありうるでしょう。
「ChatGPTへの代替はもはや避けられない」
しかしAIの進化によって、知的労働の多くが淘汰される可能性があるというのは、繰り返し指摘されてきたことです。
特に、ChatGPTが大規模言語モデル(LLM)であることを考えれば、ライターのような「言語に関わる仕事」がAIによって代替される未来は、容易に想像できました。
なかでも、「SEO(検索エンジン最適化)」を主目的にした記事の作成は、もともと機械的な作業と見られていたので、AIに取って代わられる可能性が高いのです。
そう考えると、今回の記事に登場するウェブ会社がライターに対して報酬の減額を求めたのは、経済合理性からすれば自然な行動だったといえます。
そのような観点から、ウェブメディアの編集者・じきるうさんは「ChatGPTへの代替はもはや避けられない流れ」「AIに書けない価値の高い記事をどう書いていくか、ライターは真剣に考えるフェーズに入っています」と警鐘を鳴らしています。
ChatGPTへの代替はもはや避けられない流れなので、AIに書けない価値の高い記事をどう書いていくか、ライターは真剣に考えるフェーズに入っています。
「AI使うから報酬安く」フリーライターに突然の要求、違法の恐れも:朝日新聞デジタル asahi.com/articles/ASR8B… 「AI使うから報酬安く」フリーライターに突然の要求、違法の恐れも:朝日新聞デジタル AIでもできる仕事だから報酬を安くして――。文章や画像を自動的に作り出す「生成AI」の登場を理由に、依頼主がフリーライ www.asahi.com
朝日新聞記事のコメント欄でも、近現代史研究者で、評論記事を執筆することが多い辻田真佐憲さんが「同業者として気を引き締めるばかり」と記しています。
「もともと『1文字◯円』みたいなフリーライターの仕事は将来厳しいと指摘されていました。『AI使う』云々は値下げの口実にすぎないでしょう。フリーは自由で気ままですが、そのぶん自分で自分を舵取りするたいへんさもあります。専門的な分野や独自の視点を養い、文字のみならず動画配信もするなど、さまざまなことに挑戦しないと生き残れません。同業者として気を引き締めるばかりです」
「基本的なコンテンツライター」は消えていく運命?
私自身は、ChatGPTが「GPT-4」にバージョンアップした今年3月、「GPT-4の登場によってなくなる仕事は何か?」と、ChatGPTにたずねたことがあります。
そのとき、ChatGPTがあげた「なくなる仕事」の5番目に「基本的なコンテンツライター」が入っていました。
今回の朝日新聞記事が取り上げた事例は、まさに「基本的なコンテンツライター」の行く末を暗示しているといえます。
つまり、報酬が減額されるだけならばまだマシなほうで、ライターという仕事そのものがなくなる可能性もある。そういう現実と向き合っていかなければいけないのです。
「AIを使いこなすライター」になれるかどうか
じきるうさんが指摘するように、これからのライターに求められるのは「AIに書けない価値の高い記事をどう書いていくか」という視点ですが、もう一つ、別のアプローチがあります。