マスコミ抜きで「社長交代」を伝えたトヨタイムズの衝撃
新聞やテレビが情報流通を支配する「マスメディアの時代」は終わった。1月26日のトヨタ自動車の社長交代のニュースを見て、そう思わざるをえませんでした。
トヨタ創業家の豊田章男社長(66)が退任して、13歳若い佐藤恒治執行役員(53)が後任に就くという電撃人事。この世界を驚かせたビッグニュースについての豊田社長の説明が、報道関係者向けの記者会見ではなく、トヨタのYouTubeチャンネル「トヨタイムズ」で行われたのです。
53歳の執行役員を後任社長に抜擢した理由を説明するトヨタ自動車の豊田章男社長(出典:YouTubeチャンネル「トヨタイムズ」)
トヨタの発表を受け、日経新聞や朝日新聞、NHKといったマスメディアが社長交代のニュースを報じましたが、そこで使われているのは自ら撮影した記者会見の写真ではなく、トヨタのYouTubeチャンネルの「キャプチャ画像」です。
YouTubeで「社長交代」のニュースを直接伝える
トヨタのような大企業の重大発表はこれまで、大勢の報道関係者を集めた「記者会見」の場で説明されるのが通常でした。
しかし今回、トヨタはそうした従来型の発表スタイルを取りませんでした。マスメディアを媒介せず、オンラインの自社メディア(オウンドメディア)を使って、直接、一般の視聴者にアピールする形を選びました。
大手メディアの記者たちは、マスメディアを「中抜き」してしまうトヨタの広報の手法について、苦々しい思いを抱いたかもしれません。そのせいか、各社の記事では「トヨタイムズ」や「YouTube」といった言葉を避けているような表現も見られます。
豊田氏は26日に開いたオンライン記者会見で「トヨタの変革をさらに進めるには私が新社長をサポートする体制が一番良いと考えた」と述べた(日経新聞)
豊田章男社長はオンライン配信で、今回の人事を決定した背景について、「トリガーとなったのは内山田会長が退任されること(略)」と述べました。(NHK)
このように「オンライン記者会見」や「オンライン配信」と記し、「トヨタイムズ」という固有名詞を使わないメディアもありました。
今回のトヨタイムズの発信からうかがわれたのは、「マスメディアを間に挟まずにダイレクトに情報を発信したい」という豊田章男社長の強い意志です。
トップ交代について説明するトヨタの豊田章男社長(出典:YouTubeチャンネル「トヨタイムズ」)
豊田社長はYouTube会見の冒頭でこう述べています。
「トヨタイムズニュースをご覧のみなさま、こんにちは。豊田でございます。本日の臨時取締役会で、本年4月より会長の内山田竹志が退任し、新会長に私、豊田章男が、新社長に佐藤恒治が就任することを決定いたしました。その内容をステークホルダーのみなさまに、できるだけ早く、正しくお伝えするために、急遽こうした場を設定いたしました」
この中の「できるだけ早く、正しく伝えるために」というフレーズに、豊田社長の「マスコミは正しく伝えないから信用できない」という気持ちがにじみ出ている、と解釈するのは、うがった見方でしょうか。
こちらは、トヨタのオンライン会見の動画。ライブ配信されましたが、アーカイブでも視聴できます。
「情報はマスコミの独占物ではなくなった」
このようなスタイルの会見には、プラスとマイナスの両面があります。プラス面として、一般の人々が大企業の経営トップの「生のメッセージ」を直接受け取ることができる点が挙げられます。
経済ジャーナリストの財部誠一さんは、Facebookで「真実を知りたければ一次情報にアクセスしたいものだ」として、次のようなコメントを投稿しています。
電撃的なトヨタ社長交代のニュースを一番正しく伝えているのはトヨタのオウンドメディア「トヨタイムズ」だ。様々な分析や評価があるだろうが、豊田章男社長『66歳)と、その後任に抜擢された佐藤恒治執行役(53歳)が記者会見で何をどう語ったのかを自分の目で確かめるのが良い。
このようにトヨタイムズを肯定的に評価しながら、財部さんは続けます。
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