「AI全振り宣言」の朝日新聞社長に「自身はAIをどう使っているか?」と質問してみたら、意外な答えが返ってきた

「新聞社のAI活用の実情」を語る朝日新聞の角田克社長(中)
メディアは「AIという現実」にどう向き合うべきか
「Media Innovation Conference 2026」と題されたこのカンファレンス。主催したのは、メディア業界の新しい動きを伝える専門メディア「Media Innovation」を運営するイードです。参加登録者(現地&オンライン)の数は1000人を超え、昨年を大きく上回る規模だということでした。
今回のテーマは「AIという現実」と「メディアはブランドだ」というものでしたが、両者はリンクしています。すなわち、生成AIの普及によって従来メディアの吸引力が低下する中で、個々のメディアがブランドの力を強化していく必要がある。そんな課題にどう向き合うべきかが、さまざまな形で議論されました。
登壇者は、note CEOの加藤貞顕さんやGunosy社長の西尾健太郎さん、インプレスホールディングス代表取締役の塚本由紀さん、ねとらぼを統括するアイティメディア常務執行役員の石森将文さん、人気ポッドキャスト「Off Topic」を運営する宮武徹郎さんなど、注目すべき人物が多く、私が参加したセッションはどれも充実した内容でした。
それらのセッションのトップバッターとして登壇したのが、朝日新聞社長の角田克さんでした。
朝日新聞編集部門の「社員アンケート」の結果とは?
角田さんのトークの中で特に興味深かったのは、朝日新聞の編集部門約1700人のうちの約1000人が回答したという「社員アンケート」の結果です。その内容を紹介しながら、少しコメントしてみたいと思います。
まず、「生成AIをどの程度使っていますか?」。今年の2月から3月にかけての回答の結果は、次のようなものでした。
毎日使っている:22%
週に数回使っている:31%
時々(月に数回)使っている:27%
試しに使ったことはあるが、現在は使っていない:13%
使ったことはない:7%
この数字をどう評価するかは、人それぞれでしょう。「毎日使っている」と「週に数回使っている」を合計すると50%を超えるので、なかなか高い数字だといえるかもしれません。一方、名刺管理サービスなどをてがけるSansanは、社員の8割が「ほぼ毎日使用している」そうです。それに比べると、だいぶ低く見えます。
では、当事者はどう評価しているのか。
角田さんとともに登壇して、アンケート結果を説明した朝日新聞・社長室メディア戦略チーム専任部長の東岡徹さんは「毎日使っている人が22%で、それ以外の人が週に数回とか月に数回というのは、まだ『使っている』と呼ぶのは難しいかなと思っています」と話していました。
角田さんも「この数字は『AIに全振り』の正体で、本当は発表したくなかった」と語り、AIの利用率が期待以下であるという認識を示しました。
AI活用法のトップは「音声の文字起こし」
続いての質問は「AIをどのような『目的』で使っていますか?(複数選択可)」。回答は次の通りです。
音声の文字起こし:52%
取材前の下調べ、情報収集:44%
企画のアイデア出し・切り口の壁打ち:24%
翻訳(外国語資料の読み込み含む):23%
膨大な資料・データの多角的な分析・要約:22%
表現の言い換え・推敲・読みやすさ改善:16%
誤字脱字や事実関係の確認の補助(Typolessを除く):12%
引き継ぎや社内の説明資料の作成など:11%
見出し案の作成:10%
記事の要約:7%
インタビュー質問案の作成:6%
論理構成の矛盾点や、情報の過不足の指摘:5%
SNS文言、要約、ニュースレターの作成:3%
解説・企画記事の構成案作成:2%
定型記事(お知らせ、人事、決算等)の下書き:2%
前文の作成:1%
ストレートニュースの素案作成:1%
AIの活用法として最も多かったのは「音声の文字起こし」。これは、取材に携わる記者・ライター・編集者の人たちは共感できる結果でしょう。AIの文字起こしツールによって、インタビューや対談、座談会の記事作成は大きく変わりました。
ユニークなのは、朝日新聞の場合、自社で開発した「ALOFA」という文字起こしツールを使っている点です。
東岡さんによると「音声ファイルをアップロードすると、1時間くらいのものでも、5分ほどで文字起こしができる」とのこと。「これは社員全員が使えるので、多くの編集部門の記者も使っているのだろうと思います」と話していました。
記事作成に直接つながる「AI活用」は1〜2%
一方で、原稿作成に直接関わる作業については、「解説・企画記事の構成案作成:2%」「定型記事(お知らせ、人事、決算等)の下書き:2%」「前文の作成:1%」「ストレートニュースの素案作成:1%」というように、軒並み低い数字となっています。
東岡さんも「意外と使っていないなというのが、率直な感想」とコメントしていました。
その背景について、「社内では昨年9月にAI利用のガイドラインを定めて、AIを使って原稿を書く場合の運用ルールを示しているが、どういう場合に相談が必要なのかといった細かいFAQが整備されていない。そのため、まだ実態が伴っていないのではないか」と推測していました。
アンケート結果の説明の前に、角田さんは「25歳以下の人たちは学生時代からAIを使ってきているので、『使うな』と言っても使う。人は便利なものを目の前にして『使わない』という選択はしない」と話していましたが、それにしては、かなり低い数字だと感じます。
うがった見方ですが、もしかしたら、実際はAIを活用して原稿の下書きを作っているのだけど、アンケートでは「使っていない」と回答している若い記者が結構いるのかもしれません。
過半数が「AIのハルシネーションを見抜けるか不安」と回答
3つ目の質問は「AIの利活用での不安や障壁は?(複数選択可)」でした。その回答結果は次の通りです。
ハルシネーション(もっともらしい嘘)を見抜けるか不安:51%
著作権侵害や情報漏洩のリスクが怖い:36%
どこまで使えば「AIを使った」とみなされるのか、線引きが不明確:33%
「自分の言葉で書く力」が失われるのではないかという不安:29%
そもそもAIの使い方がよくわからない:18%
特に不安はない:12%
記事に「おことわり(AI利用の明記)」を入れることへの抵抗感:7%
先輩や上司がAI利用に否定的で、使いづらい雰囲気がある:3%
2位から4位の「著作権侵害や情報漏洩のリスクが怖い」「どこまで使えば『AIを使った』とみなされるのか、線引きが不明確」「『自分の言葉で書く力』が失われるのではないかという不安」はどれも納得できるもので、そのように感じている記者やライターは他にも大勢いるのではないかと思います。
しかし、1位が「ハルシネーション(もっともらしい嘘)を見抜けるか不安」という回答だったのは、ちょっと残念でした。というのは、新聞記者という職業は、さまざまな情報を疑いながら受け取り、その真偽を見極める目を持っていることに価値があるのではないか、と思うからです。
生成AIがもっともらしい嘘をつくのは、そのシステムの原理からして当然のことで、生成AIの回答にはどこかに誤りが混じっていると考えるべきです。それはあたかも、取材した相手の発言のどこかに不正確な情報が紛れ込んでいるのと同じです。
むしろ、生成AIの回答が100%信用できないからこそ、日々、情報の真偽の見極めに神経を使っている記者や編集者がその能力を活かすことができる。私はそう考えているのですが、意外とその価値に気づいていない記者・編集者が多いのかもしれないな、と感じました。
一方、東岡さんはアンケートの結果を示しながら、「編集部門のAI活用が進まない理由は3つある」として、次のようにまとめていました。
そもそもAIの使い方がわからない
どこまでAIを使っていいのかわからない
AIを使った場合、どこまで使ったら「AIを使いました」というおことわりをすべきかわからない
こうした「わからない」を踏まえながら、「きちんと向き合って、一つずつ答えを出していって一緒に考えていく取り組みをしていきたい」と、東岡さんは話していました。
角田社長に質問「自身がいま使っているAIは?」
角田さんと東岡さんのトークの後、質疑応答の時間があったので、手を挙げて質問してみました。
「角田さん自身がいま、実際に使っているAIを具体的に挙げてもらえますか?」
角田さんはこう答えました。
「私は、各担当にAIエージェントを作ってもらって、それを毎朝、私のところに転送してもらう仕組みにしていまして、私自身が自分用にAIエージェントを作るというのは、やっていないんです」
こちらが聞きたかったのは、AIエージェントの話ではなくて、もっと基本的な生成AIの使い方だったので、再度、質問しました。
「たとえば、ChatGPTとかGemini(ジェミニ)とかClaude(クロード)とか、そういうAIも使っていないんですか?」