「次世代ジャーナリズム」の正義か、既得権の擁護か? 新聞記者がデモ行進

新入社員の賃金を従来よりも25%カットーーそんな徳島新聞のコスト削減策に反発した労働組合がストライキを実施し、デモ行進で抗議しました。新聞業界の苦境を象徴するニュース。元新聞記者の2人が問題点を議論しました。
あしたメディア研究会 2024.03.15
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新聞記者が所属する編集部門を分社化して、新入社員の賃金を従来よりも25%カットする。そんな徳島新聞の経営合理化策に労働組合が反発し、29年ぶりのストライキが行われました。ネットでは、新聞記者たちが「次世代搾取を許さない!」とデモ行進する動画が拡散しました。

新聞業界の構造的な問題を浮き彫りにしたこのニュースについて、元新聞記者でネットメディア編集者の2人が議論しました。現場の内情を知る者だからこそ見えてくる、新聞社の現状とジャーナリズムの未来とは?

※2人の議論の内容をもとに、読みやすいように対談風に再構成しました。

新聞社を取り巻く厳しい現実

カメ:徳島新聞の編集部門分社化と新入社員の賃金カットの話だけど、どう思う? 経営側が厳しい環境の中で合理化を図ろうとしている一方で、組合は"次世代の新聞記者"の待遇改悪に反発しているみたいだけど。

ウサギ:新聞社の経営環境が厳しいのは間違いない。部数減と広告収入の減少で、多くの新聞社が苦境に立たされている。でも、組合は「内部留保もあるし、一定の利益は出ているはず。経営陣の責任を労働者に押し付けるのは問題だ」と訴えているよね。

カメ:他社では既に分社化が進んでいるし、徳島新聞社だって印刷部門や広告営業は分社化済みだそうだ。コスト削減は避けられないと思うけど、編集部門の新入社員の待遇悪化となると、記者たちも黙っていられないのかもしれない。組合は「次世代搾取だ!」と抗議しているね。デモの様子はMBS(毎日放送)の動画を見ると、よくわかる。

ウサギ:就活サイトなどの情報によると、徳島新聞の現場の記者職は60人程度のようだ。そして、次回の新卒の記者職募集は11人〜15人程度らしい。だとすると、けっこうな割合が「安い記者」で占められることになる。影響は大きそうだ。

カメ:そうなると、組合の「次世代搾取」という主張に一定の説得力があることになるね。実際、新制度入社の記者がそれなりに仕事ができるようになったとき、1年上の記者とほとんど同じ働きをしているのに、入社年度がちょっと違うだけで25%も賃金が違うとなると、不公平感は大きそうだ。

ウサギ:しかしながら、経費削減の問題も不可避だろうから、現役社員の給与に言及しないまま「格差をなくせ」といっても、現実味に欠ける気がするな。

カメ:ただ、徳島新聞の記者の給与水準は、地方紙の中でもトップクラスだったらしい。それだけに、一気に25%カットというのは衝撃が大きい。経営合理化のためとはいえ、そこまでする必要があるのかな。

ウサギ:徳島の生活水準や似たような規模の同業他社と比較した場合、カット後でもそれほど悪い条件ではないと思う。今回の最大の問題点は、経営側が「若手人材を軽視している」というメッセージを全国に発信してしまったことだろう。これでは優秀な若手が集まらないかもしれない。

メディアが注目した組合のストライキ戦略

カメ:確かに、これで優秀な人材が集まるかどうか疑問だよね。でも、いくら給料が下がっても、記者という仕事に情熱を持つ人は来るんじゃないかな。僕自身も、20代で経験を積むなら魅力的な仕事だと思う。

ウサギ:そういう情熱だけで来る人もいるかもしれないけど、こんな若手軽視の話が出てくるとなると、新聞社自身が「この仕事には将来性がない」と言っているも同然だ。他社と比べたイメージも悪くなる。記者志望の学生に話を聞くと、OBOGの「新聞社は潰れない」という楽観論を真に受けている人も多そうだけど、こんな話があると素直には信じられなくなるんじゃないかな。

カメ:新聞記者の仕事って、ロマンはあるけど、実際はかなりハードだからね。僕も新聞社で働いた経験があるけど、激務でしんどかった。それでも魅力がある仕事だとは思うんだ。

ウサギ:そこは同意するよ。でも、新聞社の現状を考えると「定年まで安心して働ける職場」とは言い難い。これからの新卒はあくまで最初のステップとして考えて、「次」を見据えた就職をしなければならないんじゃないかな。

カメ:そういえば、組合のストライキは、朝日新聞が詳しく報道したほか、読売新聞や毎日新聞など他の新聞も取り上げたよね。NHKも放送したようだ。労働組合としては、うまくメディアを活用した印象だ。世間の注目を集めるという点では成功したんじゃないかな。

朝日新聞は徳島新聞労組のストライキの模様を報じたが、掲載されたのは、徳島県内の読者向けの地域版。インターネットがなければ、広く拡散しなかった可能性が高い。

朝日新聞は徳島新聞労組のストライキの模様を報じたが、掲載されたのは、徳島県内の読者向けの地域版。インターネットがなければ、広く拡散しなかった可能性が高い。

ウサギ:でも、うがった見方をすると、新聞業界が苦境に立つ中で、他の新聞社の記者にとっても「明日は我が身」といえる。つまり、自分たちの問題を伝えるのに、自分たちのメディアを活用したという見方もできる。これこそ、新聞記者の特権性の表れなのかもしれない。その点は、どう思う?

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続きは、853文字あります。
  • ネットメディアが「新聞」のストライキを拡散
  • 新聞の夕刊に関するアンケート

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